Vengineerの戯言

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Intel CPUの電源

はじめに

今週の「半導体チップ雑談」では、GPUの電源についてお話しました。

上記のツイートのスレッドに貼った、下記の記事をベースにGPUの電源がどうなっているのかを説明しました。

www.igorslab.de

この記事のPage.3の下図が非常にわかりやすいと思います。説明のために引用します。

Driver MOSFETが3個(High側に1個、Low側に2個)、Driver MOSFETのGateにPWM ControllerからのPhase信号が来ます。入力の12VをこのDriver MOSFET + Inductor にて、必要な電源(0.7 - 1.2V) に変換しています。

下図は、上記の Driver MOSFETを1つのパッケージにしたICを使ったものです。説明のために引用します。

Intel CPU の電源

GPU(NVIDIAAMDIntel)の電源は上記のような構成で電源を生成しています。では、Intel CPUの電源はどうなっているのかを調べました。

第4世代Intel Coreである Haswel にて、FIVR (Fully Integrated Voltage Regulator) を導入したようです。

pc.watch.impress.co.jp

  • Package Inductors for Intel Fully Integrated Voltage Regulators (Feb., 2016)

下図は上記の記事から説明のために引用します。黄色のPWM 部、16 x bridges (Driver MOSFET)、16 inductors (Package上に実装)、その後が出力電源のVout

下図も上記の記事から説明のために引用します。左側が従来の電源 + CPU で、外部のVR(GPUの電源のような)にて電源(VAXG、VCC、VCCPLL、VCCSA、VCCIO)を作り、その電源をCPUに供給しています。Haswellの電源は、Off-Chip Voltage Regulator から 12V => VCCIN を生成し、VCCINから On-Chip Voltage RegulatorにてVGT、4 x CORE、VRING、VSA、VIOA、VIODを生成しています。Inductor だけは、CPUの外(Package上)にあります。

下図も上記の記事から説明のために引用します。外にある Inductor はPackage上に下図のような構造で作っています。たくさん Inductor があるのは、各電源毎とPhase毎に Inductor が必要なためです。Inductorの部分を、Air Core Inductors (ACI)とよんでいるようです。

第6世代Intel Coreである Skylake では、FIVRが使われなくなりました。KabyLakeでもFIVRは使われなくなっています。その理由は、

Intelのアーキテクトは、IDFセッション後の会話で「FIVRを外した理由は、Skylakeでは低電力での動作にフォーカスしたからだ。低電力で動作させようとすると、FIVRは適していなかった。それがSkylakeから、FIVRを外した最大の理由だ」と説明した。

ということです。

pc.watch.impress.co.jp

Skylake世代では、4.5WのプロセッサTDP(Thermal Design Power:熱設計電力)領域までカバーする。

低消費電力なものに対しては電力効率が悪いためのようです。

IntelのFIVRは、90%の高い電圧レギュレーション効率を誇っている。しかし、これは最適なロード電流時の値だ。実は、ターゲットとする電流量よりも下がると、FIVRの電力効率は急激に低下する

Ice Lake で FIVR が復活。

下記の記事の最後にちょこっと書かれています。

 そして、目立たないが重要な点は、FIVR(Fully Integrated Voltage Regulator)が統合されていること。Ice LakeのPCHのFIVRは、PCHだけでなくCPUにもパワーを供給する。このFIVRのアーキテクチャは、Ice Lakeの電力制御のカギとなる。CPUに対しては、オンパッケージのPCHに電圧レギュレータを載せることで、粒度が小さく切り替えの速い電力制御を行なうはずだ。

FIVR は、実は CPU die ではなく、PCH die に搭載されているようです。

pc.watch.impress.co.jp

下記の図は、マイナビの「[Intel Packaging Update - 「Foveros」と「EMIB」による高密度実装、HotChipsで最新世代の新情報]からです。説明のために引用します。(https://news.mynavi.jp/article/20210902-1963101/)」

下の左側には、MBVR (Mother Board Voltage Regulator) で、Mother Board にて各種電圧を生成し、Package上の Capacitorを作って、die に供給しています。

下の真ん中に FIVR の図が載っています。水色が Platform(つまり、Mother Board)、緑色が CPU Package(入力部のCapacitor、Inductor:ACIと出力側のCapacitor)上、紫色が die のようです。

下の右側の図がFIVRの構造です。紫が入力電圧(Vin)、黄色がBrigdeで die 内のMOSFETからInductorの間の部分、赤色がInductor(ACI)、赤色が出力電圧のVoutです。右側にACIの3D構造図があります。

下図もマイナビの記事から説明のために引用します。真ん中の図が First Generation FIVR ACIs の3D構造です。

下図もマイナビの記事から説明のために引用します。Ice Lake では、ACIではなく、Magnetic Inductor Arrays (MIA)なるものを別パッケージにしてCPUのPackageに実装しています。

中空コイルではなく、コイル中に磁石を入れることでインダクタンスを強めることが出来る。ただこれ、一般的なパッケージ材料ではないので、今のところFIVRには利用できず、パッケージ裏面にディスクリート部品として実装するしかないのが問題。

各世代でどうなっているのか?

MBVR

FIVR

  • 4th: Haswell
  • 5rd : Broadwell

MBVR

  • 6th : Sky Lake
  • 7th: Caby Lake
  • 8th: Coffee Lake
  • 9th : Coffee Lake Refresh-S

FIVR (MIA を利用した)

  • 10th: Ice Lake/Comet Lake
  • 11th : Rocket Lake

Core と Graphics は、FIVRではなくなった。たぶん、消費電力が大きくなり、FIVRではサポートできなくなったのでは?

  • 12th : Alder Lake
  • 13th: Raptor Lake

第4世代からDatasheetにて確認しました。

第4世代

第5世代

第6世代

第7世代

第8世代/第9世代

10th

  • VCCIN : Input FIVR, Processor IA Cores And Graphic Power Rail
  • VCCIN_AUX : Input FIVR, SA And PCH components

11th

  • VCCIN : Input FIVR, Processor IA Cores And Graphic Power Rail
  • VCCIN_AUX : Input FIVR, SA And PCH components

FIVRが入っているのに、Mother Board には、結構な Voltage Regulator が載っているのは何故なの?と思い、Processor Power Rails DC Specifications の部分を確認したら、VCC_IN DC Specification には、Maximum 2.0 V とか 2.05 V になっているので、外部電源の12Vからこれらの電圧を作っているんでしょうね。ICC_MAXは65Aです。

12th

  • VCCIN_AUX : Input FIVR, SA, PCIe, Display IO and other internal Blocks

VCC_CORE と VCCGT は、FIVRではなくなっています。

VCC_CORE DC Specifications を見たら、次のようになっていました。Operating Voltage が 1.72 Vで、IccMAXが240 A (125W品)です。240Aは流石に FIRV ではサポートされないんでしょうかね。

VCCIN_AUX (FIVR) は、下記のようになっていて、入力電圧は 1.8V、ICC_MAX は 33A です。

13th

  • VCCIN_AUX : Input FIVR, SA, PCIe, Display IO and other internal Blocks

VCC_CORE と VCCGT は、FIVRではなくなっています。

おわりに

Intelでは、FIVRなるもので電源を作っていますが、消費電力が大きくなってしまった、VCC_COREとVCC_GRはMother Board上でVRにて作っているのでしょうかね。

ASUSの第12世代Intel Core搭載可能なマザーボードです。ここから説明のために引用します。

https://www.aaeon.com/_media/pgal_220901_dqz3rg-dup-jp.jpg

CPU Socket の周りに 4 個 + 1 個 が2組あります。4個の方が、VCC_CORE 、1個の方が VCCGT なんですかね。

下記の写真は、第13世代Intel Core搭載可能なマザーボード(ここ)です。説明のために引用します。Core i9-13900K搭載可能なので、Voltage Regulatorが21個(VRM and a 19+1+1 phase >75A)載っています。Core i9-13900K の消費電量は、125 W base, 253 W turboなのでそのぐらい必要なんでしょうかね。

それから第13世代Intel Core である、Raptor Lakeでは、digital linear voltage regulator なるものが搭載されているようです。

videocardz.com

しかしながら、下記の記事によると、この機能は無効になっているようです。

gazlog.com

参考記事

www.dosv.jp